今回、私が上記のテーマについて書こうと思ったのは、最近経験した事実を基にしたものです。
今回も結論から言いますと、今後認知症の方が2025年には700万人を突破(現在は470万人ほどと推定)し、認知症大国となる日本の陰で、向精神薬によるものと思われる脳萎縮→認知症症状発症が顕著になってくるかもしれないということです。2011年にネイチャー誌で掲載された「Antipsychotic drugs could shrink patients' brains(向精神薬が患者の脳を委縮させているのか)」は凄い反響を呼びました。(URL:http://www.nature.com/news/2011/110207/full/news.2011.75.html)
文章の結論を言うと、脳萎縮に向精神薬が関係していると説明できるのは全体の萎縮の6.6%、灰白質(神経細胞体がいる脳の一分野)の変化では全体の1.7%が説明できるとなり、向精神薬が大きく影響しているとは言えないとなっています。さらに倫理上の問題より実験が出来なかった(A群とB群に無差別にグループ分けをしAには向精神薬を服用、Bには服用しないとし、経過をみていくこと)ことも実証できていない理由です。
2014年には「Longitudinal Changes in Total Brain Volume in Schizophrenia: Relation to Symptom Severity, Cognition and Antipsychotic Medication」という論文より、向精神薬が統合失調症患者の脳萎縮に寄与していると考えられると断定はしないものの主張されています。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4103771/#pone.0101689-Leucht3
2015年にはエール大学の研究結果の論文が公表されています。これでは灰白質の損失は向精神薬の影響ではなく、精神病になった経過そのものにあるとされています。精神病になるであろうハイリスク群と健常な方にMRIを2度行い(1年を空けて)、精神病になった方に前頭前皮質(高次脳、社会的行動を行うのに重要な脳の分野)が極めて減っていたとのことです。(参照文献:Gray Matter Loss in Brain Due to Psychotic Episodes / Schizophrenia, Not From Medications→http://schizophrenia.com/?p=692)
このように最近の論文では断定はできませんが、向精神薬の脳萎縮に関して何らかで寄与していると考えられているようです。
私が今回このような話をしようと思ったのは、私が関わっている60代前半の男性で上記の状況になっているであろうと分かったからです。彼はかれこれ30年以上向精神薬を飲み続けています。先日まで入院していましたが、そこで神経内科の医師から彼が同年齢の一般的な脳よりもかなりの萎縮が見られると指摘を受けました。それは認知症によるものなのか、精神病によるものなのか。主治医の見解では、彼を最近まで診ていなかったこと、認知症によるものと断定するには極めて困難なことを挙げました。特に精神疾患の患者で、向精神薬を飲んでいるような方は、脳萎縮をしていることもあると言われ、どの要因によって脳萎縮に至ったのか分からないケースが多いようです。
彼の場合ですと65歳未満ですので、若年性認知症(65歳までに診断を受けた認知症)であれば介護保険の2号被保険者特定疾病(http://www.city.tome.miyagi.jp/kurashi/down/documents/tokuteishipei.pdf#search=%27%E4%BB%8B%E8%AD%B7%E4%BF%9D%E9%99%BA+%E7%89%B9%E5%AE%9A%E7%96%BE%E7%97%85%27)
としてサービスを受けることが可能になります。障害者福祉の在宅サービスは誠に貧困で、田舎であればより資源が乏しいのが現状です。それでも介護保険を市区町村に申請をすると、医師の診断書が必須であることから直近で診ていた医師のところに診断書が回っていくこととなります。主治医としてはこの書類は書けない、つまり神経内科的所見で認知症と判断し得る材料がないということでした。
さて、今回頭によぎったのは、向精神薬を服用している精神疾患の方達が脳萎縮を服薬していない方達よりも著名であることです。これは将来の認知症予備軍でもあると言えるのではないでしょうか。嘆かわしい話ですが、現在の精神科病院はターゲットを「高齢者」に数年前から合わせています。「精神病院体制の終わり -認知症の時代に(立岩真也著)」を読んでいただければ良く分かると思います。私は今まで若年が発症する統合失調症などと高齢者がなるとされる認知症を別個に考えていました。しかしそうではないのかもしれません。若年から精神科病院へうつ病、躁うつ病、統合失調症とつなぎ留め、長期入院、または精神科病院と離れられないようにさせ、認知症になり入院、そして臨終まで。このような一連のライン工場の如く人が病院で生を終える。私の友人で精神科病院でおおよそのことを経験してきた方がいます。彼は病院は恐ろしかったそうです。抑圧と暴力に支配された空間でいかに狂うことなく平常心を保つことが出来るのか。よくぞ戻ってこられたと思います。
私は何度もしつこく言いたいと思います。精神病院に入る可能性があるのはこうして文章を書いている私を含め全員にあります。一度理不尽な思いで病院に入れば、出るのは困難かもしれません。主張をしたり職員を威嚇すれば保護室に連れていかれるか、何かわからない薬を飲まされます。あなたがいくら正常な抵抗を試みても、病院側は「病気の悪化、再燃」などと捉えるかもしれません。私は全国オルタナティブ協議会(http://alternativejapan.org/alternative.html)を応援し、協働しています。ここでは統合失調症やうつ病、社会不安障害などと診断されたように、あなたを「病気とみなしません」。病気ではなく、今あなたの身に起こっていることが「人生のクライシス(危機)」とみなします。その危機がなぜ起きているのか、どうしていけば危機を回避できるか、乗り越えていけるかを色々な人たちが真剣に考えます。そんな対話会が取り組みとしてあります。
私を含め、今、どうすることも出来ずヘコタレテしまいそうなあなたを何とかしたいと思う人は必ずいます。1人で悩むことも必要。でも皆で悩むことで、あなたはきっと光を見つけられると信じています。僕は未来に過度な希望は持っていません。バラ色の未来も提示できません。それでも全国で胎動している精神医療に対する新たな潮流には希望を感じています。私にはそれが小さな光に見えるんです。
日本では高齢者はじめ全体的に「総痴呆」の方向へ向かっています。総痴呆とはゆりかご(赤ちゃん)から墓場(老人)まで薬漬けにされ、判断力を奪われ、人に依存しきっている者が増えている比喩です。総痴呆大国と呼ばれる未来を私は迎えたくはありません。
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